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東京高等裁判所 昭和51年(ネ)2227号 判決

控訴人 甲野花子

被控訴人 乙山太郎

被控訴人 乙山梅子

右両名訴訟代理人弁護士 高橋真清

主文

一、原判決を次のとおりに変更する。

1  控訴人と被控訴人乙山太郎との間の昭和四三年九月二六日届出による協議離婚は無効であることを確認する。

2  被控訴人両名の昭和四三年一一月七日届出による婚姻を取消す。

3  被控訴人両名の長女春子(昭和四三年一〇月二七日生)、長男夏雄(昭和四五年一〇月二一日生)、の親権者をいずれも被控訴人乙山梅子と定める。

4  被控訴人らは各自控訴人に対し、金五〇万円を支払え。

5  控訴人のその余の請求を棄却する。

二、訴訟費用は第一、二審を通じすべて被控訴人らの負担とする。

三、この判決の一の4は仮に執行することができる。

事実

控訴人は、「原判決を取消す。控訴人と被控訴人との昭和四三年九月二六日届出による協議離婚は無効であることを確認する。被控訴人両名の昭和四三年一一月七日届出による婚姻を取消す。被控訴人らは各自控訴人に対し金三〇〇万円を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決及び金銭支払部分について仮執行の宣言を求め、被控訴人ら訴訟代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠の関係は、次のとおり付加・訂正するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決三枚目裏七行目の「被告太郎は」から同八行目の初字「し」までを「被控訴人らは、控訴人が被控訴人太郎の妻であることを知りながら、被控訴人梅子が姙娠したため、被控訴人太郎において控訴人に無断で本件離婚届をし、次いで被控訴人両名において本件婚姻届をし」と改める。

2  同六枚目表三行目の「甲第一」の次に「(写、但し、控訴人の作成部分は偽造である。)」と挿入し、同五行目の「被告本人両名」の次に「(但し、被控訴人太郎については第二回)」と、同八行目の「名」の次に「(但し、被控訴人太郎については第一回)」とそれぞれ加える。

3  当審において、証拠として、控訴人は甲第二八号証を提出し、当審における控訴人本人尋問の結果を援用し、被控訴人ら訴訟代理人は右甲号証の成立は認めると答えた。

理由

一  《証拠省略》によれば、控訴人と被控訴人太郎とは昭和三八年八月一三日婚姻し、同年一〇月八日長女和子が出生したこと、控訴人と被控訴人太郎との間には昭和四三年九月二六日東京都千代田区長受付にかかる協議離婚届がなされていること及び被控訴人両名が同年一一月七日届出による婚姻をなし、両名の間に同年一〇月二七日長女春子が、昭和四五年一〇月二一日長男夏雄がそれぞれ出生したことが認められる。

二  そこで、控訴人と被控訴人太郎との間の右離婚届が控訴人の意思に基づかないでなされたかどうかについて調べてみる。

《証拠省略》を総合すれば、次の事実を認めることができる。

1  被控訴人太郎は昭和四二年二月初頃控訴人と別居してから数回にわたり控訴人と離婚の話合をしたが、控訴人はその都度長女和子の行末を案じて離婚を承諾しなかった。被控訴人太郎は同年一二月頃から被控訴人梅子と同棲し、控訴人と離婚したときは婚姻すると約束していた。

2  ところが、被控訴人梅子が姙娠し、分娩が近くなったのに控訴人が離婚に応じないので、被控訴人太郎は控訴人との離婚の協議に決着をつけようと考え、昭和四三年九月二〇日頃、当時同被控訴人が社長をしていた東京都千代田区○○○×の×番地○○ビル六階所在の○○○○株式会社事務室において、控訴人に対し離婚を迫り、甲第一号証の原本の離婚届用紙に控訴人の署名、押印を求めたが、控訴人は離婚に同意せず、押問答の末、「そんなものには自分で書けばいいじゃないの」と口走って、署名・押印を拒んだ。

3  しかるに、被控訴人太郎は当時まだ二一才であった部下の女子事務員丙川正子(その後丁谷と改姓)に対し、控訴人が離婚を承諾したからと偽って同人に控訴人の氏名を代署してもらい、その後自ら控訴人の氏名の横に有合せ印を押捺した。そして、情を知らないA、Bの両名にそれぞれ証人として署名・押印をしてもらい、所要事項を記入のうえ、同年九月二六日に東京都千代田区役所に右離婚届をなし、同日受理された。

4  被控訴人太郎は右離婚届に関し虚偽の届出をしたとして昭和四六年二月一五日東京簡易裁判所において公正証書原本不実記載の罪により罰金二万円に処せられ、右刑は確定した。

以上の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

右によれば、控訴人が「そんなものには自分で書けばいいじゃないの」と口走ったことは、控訴人が被控訴人太郎との離婚に同意したものでないことが明かであり、本件離婚届は被控訴人太郎が控訴人の意思に基づかないでしたものと認めざるをえないから、右の届出は控訴人について離婚意思を欠き無効というべきである。

なお、被控訴人らは、「控訴人と被控訴人太郎とは昭和四二年二月初旬ころ協議離婚することになり、そのころ協議離婚届書を作成したうえ、東京都目黒区役所へ届出に赴いたが控訴人の本籍地の戸籍謄本がなかったため受付けられず、やむを得ず届出書類を控訴人に託し、控訴人において責任をもって届出手続を完結することを約した。しかるに、控訴人は右離婚届出をなさないので、昭和四三年三月ころから再三控訴人に対し約束違反をせめ折衝の結果同年九月下旬に至り本件離婚届が控訴人の同意により作成されたものである。」と主張する。しかしながら、協議離婚はその届出当時離婚の意思が欠けているときは無効であるというべきであるから、仮に、被控訴人ら主張のとおり、昭和四二年二月頃控訴人と被控訴人太郎との間に離婚の合意が成立し、離婚届書の作成がなされたとしても、その後一年以上にわたって控訴人が離婚届書の提出を肯んじなかったというのであるから、右離婚の合意は控訴人の飜意によって徹回されたものとみるほかないわけである。したがって、本件離婚届書作成に控訴人が同意を与えず、届出当時控訴人に離婚意思がなかったこと前記のとおりである以上、本件離婚届は無効であるから、被控訴人らの主張は採用できない。

三  本件離婚届が無効である以上、その後になされた被控訴人らの本件婚姻は重婚として取消を免れない。そして、婚姻の取消の場合において嫡出の未成年者がいるときは、離婚の場合と同様、職権で親権者指定の裁判をすべきであると解されるところ、長女春子は満八才、長男夏雄は満六才で、いずれも幼少であること、被控訴人太郎は法律上控訴人との婚姻状態に復すること等を考慮して、右両名の親権者をいずれも母である被控訴人春子と定めるのが相当である。

四  進んで控訴人の慰藉料請求について判断する。

被控訴人太郎が控訴人の意思に基づかないで本件離婚届をしたことは前記のとおりであり、《証拠省略》によれば被控訴人春子は右の事情を知りながら被控訴人太郎と本件婚姻届をしたことが認められ(る。)《証拠判断省略》

してみれば、被控訴人らは共同不法行為者として控訴人の蒙った損害を各自連帯して賠償すべき義務があるというべきところ、以上認定の事実関係及び本件に顕われた諸般の事情を斟酌すれば、慰藉料額は金五〇万円をもって相当と認められる。

五  よって、控訴人の本訴請求は、前記認定の限度において正当であるから認容し、その余は失当として棄却すべきところ原判決は当裁判所の前記判断と異なるから、以上の趣旨に従って変更することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行宣言につき同法第一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松永信和 裁判官 糟谷忠男 浅生重機)

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